ストラーデビアンケでポガチャルの腕にあった 「謎のセンサー」の正体

World Tour Tech

ストラーデビアンケでポガチャルの腕にあった
「謎のセンサー」の正体
── そして、私たちも使える代替品の話


レインボージャージの袖の下に見えた黒い膨らみ。あのデバイスは何だったのか

2026年のストラーデビアンケ。タデイ・ポガチャルが記録的な4勝目を飾り、勝利を祝って腕を高く掲げた瞬間 ── レインボージャージの袖の下に、黒い小さな膨らみが見えました。

SNSやサイクリングコミュニティではすぐに「あれは何だ?」と話題になり、リアルタイムの乳酸値モニター、深部体温センサー、最新のパフォーマンスセンサーなど、さまざまな憶測が飛び交いました。

しかし、その正体はいたってシンプルなものでした。

Whoop(フープ)のフィットネストラッカー。おそらく最新版のWhoop 5.0と見られています。

今回は、このデバイスの正体と機能、なぜ腕ではなく上腕に装着していたのか、UCIの規制との関係、そして私たち一般サイクリストが同じようなデータトラッキングを始める場合の代替品について、調べたことをまとめてみました。

※ ポガチャルが2026年ストラーデビアンケで使用した機材(フレーム、ホイール、コックピット等)の詳細分析はこちらの記事でお伝えしています。

■ Whoopとは何をするデバイスなのか

画面を持たないフィットネストラッカー ──
24時間365日、身体を測り続ける


Whoopは、アスリートのパフォーマンスとリカバリー(回復)を最適化するために設計されたウェアラブルデバイスです。最大の特徴は、ディスプレイ(画面)を持たないこと。つまり、レース中にリアルタイムで数値を確認するためのデバイスではなく、データはすべて事後的にスマートフォンアプリで分析する仕組みになっています。

24時間装着し続けることを前提に、以下のような生体データを継続的に計測します。

心拍数 / 心拍変動(HRV)

運動時の負荷をリアルタイムで記録。HRVは自律神経の状態を反映し、リカバリー度合いの指標になります。

睡眠の質

睡眠ステージ(深い・浅い・REM)を分析し、スコア化。「今日はハードにトレーニングしてよいか、休養すべきか」の判断材料になります。

血中酸素濃度(SpO2)/ 皮膚温度 / 呼吸数

高地トレーニングの指標や体調変化の参考データとして活用されます。

VO2 Max推定値

有酸素能力の長期的なトレンドを把握するための指標です。

これらのデータを基に、毎日の「リカバリースコア」「ストレインスコア」を算出し、トレーニングの強度判断を助ける仕組みです。最新のWhoop 5.0は前世代比で7%小型化、重量わずか28g、バッテリーは最大14日間持続するとのことです。

■ なぜ腕ではなく「上腕」に装着していたのか

グローブ、リシャール・ミル、エアロ ──
いくつかの説を検証してみます


通常、Whoopは手首に装着しますが、ポガチャルは右上腕(二の腕の内側、脇の下近く)にバイセップストラップで装着していました。なぜわざわざ上腕に移したのか。いくつかの説があります。

説① グローブとの干渉回避

ポガチャルは2025年のストラーデビアンケで落車した際、素手で手をひどく擦りむいた経験から、今年はグローブを着用してレースに臨みました。グローブと手首のWhoopが干渉するため、上腕に移した可能性があります。

説② リシャール・ミルの腕時計との共存

ポガチャルはレース中にも30万ユーロ超のリシャール・ミルの腕時計を着けています。もう片方の手首も合わせて両手首が埋まるのを避けるため、という説もあります。レース中にリシャール・ミルを着けたまま走るというのも、なかなか印象的な事実ではないでしょうか。

説③ エアロダイナミクス効果

元プロロードレーサーのトーマス・デヘントは「上腕に移すことで1〜2ワットほどの空気抵抗削減効果がある。Whoopは画面がないのでどこに着けても問題ない」と分析しています。

説④ データの安定性

上腕の方が手首よりも筋肉が安定しており、激しい動きの中でもより正確な心拍データが得られるというメリットがあるようです。

個人的には、①と④の組み合わせが最も合理的ではないかと感じていますが、正確な理由は本人のみが知るところだと思います。

■ UCIの規制との関係

「心拍モニターはOK、血糖値モニターはNG」──
何が許されて、何がダメなのか


ここで重要な背景情報があります。

2021年、UCI(国際自転車競技連合)は、レース中のグルコース(血糖値)モニターや乳酸値モニターの使用を禁止しました。実際に2023年のストラーデビアンケでは、クリステン・フォークナーがSupersapiens社の血糖値モニターを着用していたことで失格処分を受けています。

しかし、Whoopのような心拍数モニターはUCIの規制対象外であり、レース中の使用は認められています。Whoopが測定するのは心拍数、HRV、皮膚温度などであり、代謝データ(グルコースや乳酸値)は含まれないため、規則に抵触しないとのことです。

マチュー・ファンデルプールなど他の有力選手もレース中にWhoopを装着しているという情報もあり、プロトンの中では珍しいデバイスではないようです。

■ Whoop 5.0の料金体系

買い切りではなく、サブスクリプション型 ──
年間$199からのプラン構成


Whoopはいわゆる買い切り型のデバイスではなく、サブスクリプション(定額課金)モデルを採用しています。デバイス本体はサブスク料金に含まれており、追加の本体購入は不要です。

プラン年額(USD)デバイス主な機能
Whoop One$199/年Whoop 5.0睡眠・ストレイン・リカバリー、VO2 Max
Whoop Peak$239/年Whoop 5.0上記+生物学的年齢分析、ストレス管理
Whoop Life$359/年Whoop MG全機能+医療グレードECG、血圧

日本国内ではWhoop公式サイト(whoop.com)から購入可能ですが、直接的な日本語サポートは限定的のようです。転送サービスを利用する方法も存在します。

■ 一般サイクリスト向けの代替品

サブスク不要で同じようなデータが取れる ──
私たちにも手が届く選択肢


Whoopのサブスク費用が気になる方(正直、私もその一人です)のために、買い切り型の代替デバイスを調べてみました。

Amazfit Helio Strap ── 15,900円・サブスク不要

Whoopに最も近い形状のデバイスで、画面なし・ストラップ型という点が共通しています。心拍数、HRV、睡眠分析、独自の「BioCharge™スコア」に対応。上腕用バンドも用意されています。重量わずか20g、バッテリー最大10日間。Amazon・楽天で購入可能です。サブスク不要という点が最大のメリットではないかと思います。ただし、睡眠分析の精度やAIコーチング機能ではWhoopに劣る面があるようです。

Polar Loop ── 約29,700円・サブスク不要

2025年に登場した買い切り型のフィットネスバンド。Whoopと同様に画面なしのファブリックストラップ型です。21mm幅のストラップを自由に交換でき、デザインのカスタマイズ性が高いのが特徴です。

Oura Ring 4 ── 約$299〜・月額$5.99

リング型のウェアラブルで、特に睡眠分析の精度に定評があります。手首や腕に何も着けたくないサイクリストに向いていますが、月額$5.99のサブスクが必要です。

Garmin系スマートウォッチ

Vivoactive 5やFenixシリーズは、心拍数・HRV・睡眠分析に加え、GPS・パワーメーター連携などサイクリストに特化した機能が充実しています。「Body Battery」機能はWhoopのリカバリースコアに近い役割を果たします。サブスク不要ですが、本体価格はやや高めです。

■ 主要デバイス比較表

Whoop vs. 代替品 ── 一覧で比較してみます


項目Whoop 5.0Amazfit HelioPolar LoopOura Ring 4
形状ストラップ(画面なし)ストラップ(画面なし)ストラップ(画面なし)リング
上腕装着×
サブスク必要($199〜/年)不要不要必要($5.99/月)
本体価格サブスクに含む15,900円約$199.99約$299〜
バッテリー最大14日最大10日最大7日
重量28g20g約4g
日本購入公式サイト(英語)Amazon・楽天等海外サイトAmazon等

個人的には、サブスク不要で最もWhoopに近い体験ができるのはAmazfit Helio Strapではないかと感じています。15,900円という価格でHRVと心拍が取れて、上腕装着もできる。ポガチャルと全く同じ……とまではいきませんが、同じ方向性のデータトラッキングを始めるには最もハードルが低い選択肢だと思います。


ストラーデビアンケでポガチャルの袖の下に見えた「謎のデバイス」── その正体は、画面を持たないフィットネストラッカーでした。

派手なテクノロジーではありません。しかし、世界最強のライダーが24時間身に着け続けているという事実は、現代のプロロードレースにおけるリカバリーとデータ管理の重要性を物語っているように感じます。

そして嬉しいことに、このアプローチは私たち一般サイクリストにも手の届く範囲にあります。ポガチャルのように78km独走する脚力はなくとも、自分の身体の回復度合いを数値で把握し、トレーニングの質を上げることはできるのではないでしょうか。

テクノロジーは「速くなるため」だけのものではなく、「賢く走り続けるため」のものでもある ── ポガチャルの腕のWhoopは、そんなことを教えてくれているように思います。

【Jamcycle 機材インフォメーション】
各種ホイール・機材について、店舗にて試乗予約・ご相談を承っております。
データだけでは語れない「生きた機材の感覚」を、ぜひご自身の脚でご体感ください。

■ お問い合わせ・試乗予約
・Instagram DM:@jam_cycle
・Mail:info@jamcycle.net

※ もちろん、店頭でのお声がけも大歓迎です。

コメント

このブログの人気の投稿

【8LIEN AETHER 5 徹底解説 Vol.3】実走インプレッション

【8LIEN AETHER 5 徹底解説 Vol.1】 空力と極限軽量化

【 8LIEN 徹底解説 Vol.4】|L6W 実走インプレッション