2026 Strade Bianche 「Tadej Pogačar」

World Tour Tech ― Strade Bianche 2026

ストラーデビアンケ4連覇の裏側。
2025年から「すべて」が変わっていた
── ポガチャルの機材設計思想を検証する


78km独走を支えたフレーム、ホイール、コックピット。「空力絶対主義」への転換を読み解きます

2026年3月7日、残り78kmから独走し、カンポ広場にたった一人で現れたポガチャル。ストラーデビアンケ通算4勝目、カンチェラーラの最多勝記録を更新する偉業でした。

しかし、この圧倒的な勝利の裏には、前年から徹底的に見直された機材の「設計思想の転換」があったように思います。なぜV4RsからY1Rsへ乗り換えたのか。なぜ242g重いフレームを受け入れたのか。なぜホイールをディープリム化したのか。調べていくと、すべてが一つの思想のもとに繋がっていることが見えてきました。

※ なお、レース中にポガチャルの腕に装着されていた「謎のデバイス」については、別記事で詳しく検証しています。

■ 起点 ── コース変更が意味するもの

グラベル約25%削減。
「空力絶対主義」への振り切りが始まった


2026年大会ではグラベル区間が約25%削減されました。ラ・ピアナとセラヴァッレの2セクターがルートから消え、舗装路の比率が大幅に増加しています。

平均速度が上がれば、速度の2乗に比例して増大する空気抵抗こそが最大の敵になります。ポガチャル陣営はこの変化を読み取り、機材コンセプトを「空力絶対主義」へ振り切った ── 私はそう見ています。

■ フレーム ── V4RsからY1Rsへ

242g重いフレームを選んだ理由 ──
「軽さ」より「空力利得」という冷徹な計算


2025年の愛機はColnago V4Rs。軽量オールラウンダーで、白い道に合わせたシルバーホワイトの特注塗装にアルカンシェルと「ベイビーハルク」が施された美しい一台でした。

2026年はエアロロードのColnago Y1Rs。チームメイトとは異なる「軽量版」の特別レイアップとのことです。

V4Rs(2025)Y1Rs(2026)
フレーム重量1,173g1,415g
+242g

242g増。しかしY1Rsは前面投影面積を19%削減し、時速50kmで約20W、時速35kmでも7Wの空力利得を生むとされています。78kmの独走では、最終盤の急坂で効く軽さよりも、舗装路での空力利得が遥かに大きいと判断されたのでしょう。242gは冷徹な計算の末に「許容」されたのだと思います。

■ コックピット ── UCIハンドル幅規制への巧妙な回答

ブラケット芯370mm、ドロップ外幅400mm以上 ──
「ジオメトリ・ハッキング」と呼びたくなる設計


2026年からUCIはドロップ外幅400mm以上、ブラケット内側距離280mm以上を義務化しました。ポガチャルの回答は、Colnago純正コックピット「CC.Y1」です。

ルール遵守と空力最適化の両立

ブラケット芯-芯幅370mmは一見ルール違反に見えますが、ドロップ部にフレアを持たせ下部外幅400mm以上を確保しつつ、手を置く上部だけ370mmに抑えています。「ツインベーン」二股形状にWahooサイコンを完全統合し、乱流も極限まで削減。ルールを遵守しながらTT的超狭幅ポジションを維持する ── 「ジオメトリ・ハッキング」と呼びたくなるような巧みな設計です。

■ ホイール ── SES 4.5からSES 6.7へ

フロント65mm、リア67mm ──
リム規制の境界線を攻めるディープリム化


足回りの変更も見逃せません。

SES 4.5(2025)SES 6.7(2026)
フロント約45mm約65mm
リア約50mm約67mm
設計思想横風安定性・操作性重視空力最大化

2025年のENVE SES 4.5は横風への安定性とグラベルでの操作性を重視した堅実な選択でした。2026年のSES 6.7は大幅なディープリム化。レース当日の穏やかな風況とグラベル削減による空力重要度の上昇が、この攻めた判断を後押ししたのではないかと思います。

UCIリム規制との関係について

UCIはホイールのリムハイトに65mmの上限規制を設けています。しかしSES 6.7のリア側は名称が示す通り約67mm。ENVEのSESシリーズは前後でリムハイトを変える「差異設計」が特徴で、規制との整合性がどのように確保されているのか詳細は明かされていないようです。この「ルールの境界線上」で性能を最大化する姿勢はコックピットの設計思想と完全に共通しているように感じます。

ディープリムがY1Rsのエアロフレームと組み合わさると、ヨー角(斜め前方からの風)での「セーリング効果」が飛躍的に高まるとされています。78kmの独走中、このホイールは追走グループとのタイム差を広げ続ける「空力的なフライホイール」として機能していたのではないでしょうか。

■ ドライブトレイン ── 55Tと165mmクランク

定石から外れたクランク長と、
高速巡航に最適化された大径チェーンリング


クランク長は2025年から継続の165mm。身長176cmのポガチャルなら定石は170〜172.5mmですが、短いクランクは股関節の詰まりを防ぎ、極端な前傾でも高ケイデンスを維持できるメリットがあります。

チェーンリングは54-40Tから55-40Tへ大径化。高速巡航時間が延びたコースへの対応で、セラミックBBやダイレクトマウントハンガーと合わせて駆動効率を徹底追求しているようです。

■ タイヤ ── 攻めた機材の中で唯一の「守り」

Continental GP5000 S TR 30mm ──
78km独走を完遂させた堅牢な選択


タイヤは前年と同じContinental GP5000 S TR 30mm。軽量な決戦用TT TRではなく、堅牢なS TRを選んでいます。

女子レースではフォレリングがパンク、ピドコックも機材トラブルで後退。攻めた機材選定の中でタイヤだけは「守り」を貫いた判断が、78kmの独走完遂を支えたのではないかと感じています。

■ 統合 ── すべては「座ったまま千切る」ために

フレーム、コックピット、ホイール、クランク ──
一つの思想のもとに統合された機材


前下がりサドル、インラインシートポスト、165mmクランク、370mm極狭ハンドル。これらが実現するのがポガチャルの代名詞「シッティング・アタック」です。

ダンシングすれば上体が起き空気抵抗が激増しますが、シッティングなら小さなシルエットを崩さず出力を維持できます。フレーム、コックピット、ホイール、クランク ── すべてが一つの思想のもとに統合されて初めて成立するスタイルではないかと思います。

2025年 → 2026年 主な機材変更まとめ
フレーム:Colnago V4Rs → Y1Rs(+242g、前面投影-19%)
ホイール:ENVE SES 4.5 → SES 6.7(F65mm / R67mm)
コックピット:CC.Y1(ブラケット370mm / ドロップ400mm+)
チェーンリング:54-40T → 55-40T
クランク長:165mm(継続)
タイヤ:Continental GP5000 S TR 30mm(継続)

カンポ広場に1分以上の差をつけてフィニッシュしたポガチャルは、ストラーデビアンケを「未舗装路のサバイバルレース」から「長距離エアロTT」へ再定義したように見えます。

コース変更を読み解き、242gを受け入れ、UCIルールの境界線を攻め、1ワットの無駄も許さない。その機材哲学こそが4連覇の真の原動力だったのではないか ── 私はそう感じています。

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