ロードバイクの最適ケイデンスは何rpm? ― パワーゾーンで変わる「回し方」の本質 Vol.3

Torque & Cadence ― Vol.3 / 3

下り基調で「漕げない」。
能動的トルクという
最も差がつく技術




登りでは300W出せるのに、下り基調では180W。この差の正体と、埋めるために必要なこと


勾配別にパワーテストをしたら、
下り基調が一番出なかった


パワーメーターを導入してから、あることを試してみました。登り、平坦、下り基調と、勾配を分けて数分間のパワーテストを行ったのです。

結果は明確でした。登りが一番パワーが出る。次に平坦。そして一番出ないのが下り基調。登りで300W出せるのに、下り基調では180〜200Wまで落ちてしまう。同じ脚、同じ心肺、同じ日のコンディション。違うのは勾配だけです。

最初はポジションの問題だと思いました。下り基調になると自転車も傾くし、空気抵抗を減らすために体も伏せなければならない。そもそもペダリングが窮屈になる。それが原因でトルクが伝わらないのだと。しかし走り込むほどに、それだけでは説明がつかないことに気づきました。

Vol.1でケイデンスは強度で変わると言いました。Vol.2で勾配変化への先読みが重要だと言いました。しかしこのシリーズで最も伝えたかったのは、実はこのVol.3のテーマです。自分からトルクを生み出す ―― 能動的トルク。最も難しく、最も差がつく技術です。


コーナーの先が下り基調だった。
そこで差が開いた


レースでの記憶が残っています。コーナーを曲がった先が下り基調になっていて、そこで前のほうの強い選手たちとの差がじわじわと開いていった

自分は必死に漕いでいました。ダッシュしているような感覚さえあった。しかし前の選手たちは車間もそこまで開かず、ペダリングにも余裕があるように見える。明らかにダッシュ力の差ではない。同じように漕いでいるはずなのに、進み方がまったく違う。ほかに何か理由があるのではないかと感じた、最初の瞬間でした。

パワーデータで確認すると、その感覚は正しかった。登りで300W出ていたのに、下り基調に入った途端に180〜200Wまでストンと落ちている。ケイデンスは回っている。でもワットが乗っていない。

WHO STRUGGLES WITH THIS?

hsjのメンバーのデータを見ても、この問題は共通しています。特に多いのは登りをメインにトレーニングしている選手。そして室内ローラーをメインに行っている人も苦手にしている傾向があります。おそらく「下り基調ではそもそもパワーはかからないもの」だと思っているのではないかと感じます。でも実際には、かけられる人とかけられない人の差は非常に大きい。


速度レンジが変わる。
だからペダリングの質が問われる


なぜ下り基調でトルクを生み出すのがこれほど難しいのか。根本的な理由のひとつは、速度レンジの違いにあると考えています。

登りでは20km/h前後、速くても30km/h。しかし下り基調になると40〜60km/hにもなります。これはつまり、後輪がすでにかなりの速度で回っているということです。その速度で回っているホイールに対して、ペダリングを合わせて負荷を感じられる状態にならないと、力が抜けてしまう

ペダルが「スカスカ」する、という表現がぴったりです。回してはいるけれど、手応えがない。抵抗がないところに力を入れようとしている感覚。登りでは勾配が作ってくれていた抵抗を、下り基調では自分の体で作り出さなければならない。

登り(受動的トルク) 速度:20〜30 km/h
後輪の回転はゆっくり
勾配が抵抗を作ってくれる
踏めばトルクが発生する
ペダルに「手応え」がある
下り基調(能動的トルク) 速度:40〜60 km/h
後輪がすでに高速回転
抵抗がほぼ消えている
自分からトルクを生み出す
ペダルが「スカスカ」する
同じ脚、同じ心肺でも、速度レンジが変わるとペダリングの質が問われる

55km/hまでは踏める。
60km/hを超えると、力が消える


能動的トルクの差が最も明確に見えるのは、トップスピードです。

55km/hくらいまではペダルに力を入れられる。しかし60km/h、65km/hとなると、ペダルに力を加えることが目に見えて難しくなっていきます。ケイデンスは上がっている。でもトルクが伴わない。回しているだけになってしまう。

強い選手のペダリングを横で見ていると、違いがはっきりと分かります。彼らは下り基調でも「漕いでいる」というよりも、ペダルに体重が乗っている。力を乗せている。自分の自重や脚の重みをペダルに移す技術が圧倒的にうまい。同じケイデンスで回しているのに、生み出しているワットが違うのは、この「乗せ方」の差だと感じています。

下り基調でのケイデンスは通常より5〜8回転ほど高くなっています。速度が上がっているのだから当然です。しかしケイデンスが上がった状態でもトルクを維持できるか。ここにレベルの差がはっきりと現れます。


上死点の「一瞬」をとらえる
―― バスケットボールのバウンド


下り基調で能動的トルクを生み出すとき、私が最も意識しているのはペダリング速度 ―― 正確には、上死点の一瞬で大きな力をとらえるイメージです。

感覚としては、バスケットボールを強く地面にバウンドさせるときに近いかもしれません。一瞬タメを作って、一気にボールを下に突く。あの「タン!」という瞬間の力の入れ方。12時の位置で一瞬とらえて、一気に踏み抜く。この感覚が、下り基調の高速ペダリングでは核心になります。

実際のペダリング速度は登りと同じはずです。しかし速度レンジが上がっているぶん、体感としては「速い回転の中で一瞬のタイミングを掴む」感覚になる。その一瞬を逃すと、1回転ぶんのトルクが消える。Vol.1で触れた「12時で体幹からペダルをとらえる」意識がここでも生きてきます。体の中心で一瞬とらえて、脚に伝える。これが下り基調における能動的トルクの正体ではないかと考えています。

ペダルに「乗せる」感覚

「踏む」のではなく「乗せる」。自分の自重や脚の重みをペダルに移していく感覚です。強い選手はこの「乗せ方」がうまい。ダッシュするような力の入れ方ではなく、体重移動に近い動作で、回転のなかにトルクを載せていく。だからスムーズに見えるし、エネルギー消費も少ない。


能動的トルクを身につけるために


下り基調で「もがく」練習をする

練習方法はシンプルです。下り基調の区間でタイムトライアルのような全力走をやる。これが最も効きました。

下り基調では自然に速度が出ます。だから多くの人は「速度が出ているから、ペダルに力を加える必要がない」と感じてしまう。速度を基準にすると、平坦や登りに比べて楽に速度が出るので、無意識に力を抜いてしまうのです。一人で走っていると特にこの感覚に陥りやすい。

だからこそ、意識的に下り基調で全力に近い力を出す練習が必要です。「ここでもがく」という体験を積むことで、スカスカだったペダルに力が伝わる感覚が少しずつ掴めてきます。

速い人と走る

正直に言えば、これが最も重要かもしれません。自分より速い人と走ること

下り基調の能動的トルクは、一人で練習しても感覚を掴みにくい。なぜなら、一人だと「この速度で十分」という基準が自分の中にしかないからです。しかし速い人の後ろで走ると、「自分はダッシュしているのに、この人は余裕で進んでいる」という現実を体で感じることができる。あの差を埋めたいという動機が、能動的トルクの習得を加速させます。

数名でローテーションしながら速度を上げていく練習も効果的です。全員で速度レンジを上げていくことで、下り基調でペダルに力を入れ続ける必要が生まれます。

HONEST NOTE

特別な方法でブレイクスルーを起こせたわけではありません。下り基調で全力走を繰り返すこと、速い人と走ること。地道な積み重ねで少しずつ感覚が掴めてきたのが実感です。そして正直に言えば、まだ完全にできているとは思っていません。60km/hを超える領域でのトルク維持は、今でも課題のひとつです。


うまい人は下り基調で「休める」。
そうでない人は「脚を使ってしまう」


レースにおいて、能動的トルクが持つ意味は「速さ」だけではありません。エネルギーマネジメントに直結しています。

下り基調でうまくトルクを乗せられる選手は、集団の中でスムーズに走れています。無駄な力を使わず、ペダリングにも余裕がある。結果として、下り基調の区間を「休む」時間に変えることができる。

一方、能動的トルクが不足している選手は、千切れなかったとしても、下り基調で必要以上に心拍が上がり、ペダリングもせわしなくなり、エネルギーを浪費してしまう。集団にはいるけれど、脚は確実に削られている。それが最後の勝負どころで効いてくる。

下り基調で「速い」か「遅い」かではなく、下り基調を「楽に走れる」か「消耗しながら走っている」か。この差が、レース全体の結果に影響していると強く感じています。


3つのVolを通じて


Vol.1 ― ケイデンスは強度で変わる

「トルク型 vs ケイデンス型」という二項対立ではなく、パワーゾーンに応じて最適ケイデンスが変動する。心肺と筋疲労のバランスで、その瞬間の最適値を探る。

Vol.2 ― 勾配変化でトルクを管理する

急勾配→緩斜面でトルクが抜ける。緩斜面→急勾配でエネルギーを浪費する。数回転の先読みでギアを動かし、パワーゾーンに長く滞在する。

Vol.3 ― 下り基調で「能動的トルク」を生み出す

最も難しく、最も差がつく領域。上死点の一瞬をとらえ、体重をペダルに乗せる。うまくできれば下り基調で「休める」。できなければ消耗し続ける。

すべてに共通するのは、ケイデンスを固定せず、場面に応じて変化させること。そして変化させるためには、自分の体で何が起きているかを知り、道の先を読み、意識的にペダルとギアを操作する。

「まずこれだけやってみて」とひとつ勧めるなら、下り基調の区間で一度、全力でもがいてみてください。普段のライドで「ここは下りだから楽をしよう」と思っている区間を、あえて全力で踏んでみる。そこで感じるペダルの「スカスカ感」が、能動的トルクの入口です。


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