ロードバイクの最適ケイデンスは何rpm? ― パワーゾーンで変わる「回し方」の本質 Vol.1

Torque & Cadence ― Vol.1 / 3

ケイデンスは「固定」するものではない。
パワーゾーンで変わる
「回し方」の最適解




「トルク型 vs ケイデンス型」を超えて。強度・時間・地形で変化するケイデンスの本質


「肺が先に悲鳴を上げる」
―― そこから始まった疑問


レースで走っていると、どうしても肺と呼吸の苦しさに追い詰められて、出力を維持できなくなることがありました。脚はまだ動く。でも息が続かない。

あるとき、こう考えました。肺を使いすぎないためには、ケイデンスを落として対応するのがいいのではないか。ケイデンスを下げれば心拍の上がりが抑えられる。そのぶん筋肉への負荷は増えるけれど、呼吸が楽になれば出力自体は維持できるかもしれない。当時は80回転前後を意識して走っていました。

これが、私がケイデンスについて考え始めた原点です。そして走り込むほどに、ひとつの確信が強くなっていきました。ケイデンスは「自分のタイプ」で固定するものではなく、場面に応じて変えるものだということ。

「あなたはトルク型?ケイデンス型?」。サイクリストなら一度は目にする問いですが、この分け方は重要な事実を見落としています。最適なケイデンスは、強度によって変わる。維持する時間によっても変わる。そして地形によっても変わる。固定された「タイプ」で語れるほど単純ではないのです。

この記事では、ケイデンスとは本質的に何なのかを整理し、「パワーゾーンによって回し方を変える」という考え方を掘り下げていきます。


パワー=トルク × ケイデンス
―― 同じワットの「出し方」は無限にある


最も基本的な事実を確認しておきます。

パワー(W)= トルク(Nm)× ケイデンス(rpm)× 定数

同じ300Wを出すのに、60rpmなら47.7Nmのトルクが必要ですが、90rpmなら31.8Nmで済みます。ケイデンスを上げれば1回あたりの踏力は減り、ケイデンスを下げれば踏力は増える。同じ仕事量を「少ない回数で大きな力」か「多い回数で小さな力」かで分配しているだけです。

ケイデンス 300Wに必要なトルク 負荷の特徴
60 rpm 47.7 Nm 筋肉への負荷 大 / 心肺への負荷 小
75 rpm 38.2 Nm バランス
90 rpm 31.8 Nm 筋肉への負荷 小 / 心肺への負荷 大
105 rpm 27.3 Nm 筋肉への負荷 最小 / 心肺への負荷 最大

ここで注目したいのが右端の列です。ケイデンスを上げると筋肉の負荷が減る代わりに心肺への負荷が増え、ケイデンスを下げるとその逆が起こる。つまりケイデンスの選択とは、「筋肉」と「心肺」のどちらに負荷を振り分けるかの選択でもあるのです。

冒頭の原体験 ―― 「肺が先に苦しくなる」 ―― に対して「ケイデンスを下げる」という対処が有効だったのは、この原理で説明できます。ケイデンスを落とすことで心肺への負荷を減らし、そのぶんを筋力に振り分けた。これがケイデンス選択の最も基本的なメカニズムです。


強度が上がると、最適ケイデンスも上がる
―― 「固定rpm」が間違いである理由


「最適なケイデンスは何rpmですか?」。最もよく聞かれる質問のひとつですが、答えは「ひとつの数字では答えられない」です。

2024年、Dunstらがプロトラック選手14名を対象に行った研究は、最適ケイデンスが固定値ではなく運動強度に応じてS字カーブを描いて上昇することを示しました。低強度では遅筋繊維(Type I)だけで対応できるため最適ケイデンスは低く、強度が上がると速筋繊維(Type IIa)が動員され、この繊維の最適収縮速度が高いため、全体の最適ケイデンスが押し上げられるのです。

低強度(L1-L2)―― 約45〜55 rpm が最も効率的

遅筋繊維だけで対応できる領域。エネルギー効率だけを考えれば低めのケイデンスが有利。ただし、私自身はL2で85回転が楽だと感じていますが、あえて90回転以上を意識して走るようにしています。これはより高いケイデンスに体を慣れさせるためで、効率とトレーニング効果のバランスを意識した選択です。

閾値付近(L3-L4 / FTP)―― 約65〜80 rpm が研究上の最適値

遅筋だけでは足りず、中間的な繊維(Type IIa)が動員され始める領域。研究上の最適値はこの範囲ですが、実走ではもう少し高めを選ぶ選手が多い。私の場合はFTP走で88〜92回転。登りではこのゾーンの低め(88前後)、平坦ではやや高め、下り基調ではさらに高めになります。同じFTP域でも地形で変わる ―― これは次のVol.2で詳しく掘り下げるテーマです。

VO2max付近(L5)―― 約80〜90 rpm が研究上の最適値

ここが最も複雑な領域です。高いワットを出そうとすると92〜95回転程度にはなりますが、そうすると心拍数が上がりすぎて持続できない可能性が出てくる。だから実際には、維持する時間によってケイデンスを変えています。短時間(2〜3分)なら高め、長時間(5分以上)なら低め。強度だけでなく「どれだけ持たせるか」が判断基準に加わるのです。

RESEARCH vs REALITY

研究が示す「最も効率的なケイデンス」は、実走で選手が選ぶケイデンスより常に低いことが知られています。プロは最も効率的な回転数より10〜20rpm高い領域を選ぶ傾向がある。これは効率だけでなく、筋疲労の蓄積速度を抑え、レースの後半に脚を残すという判断が加わっているためだと考えられています。ケイデンスの最適解は「今この瞬間の効率」だけでは決まらない。レース全体の中でどこに脚を残すかという、時間軸の判断が常に含まれています。


心肺と筋疲労のバランス ――
ケイデンス選択の「本当の判断基準」


強度によって最適ケイデンスが変わる。これは科学的な事実です。しかし、もう一歩踏み込んで考えたいことがあります。同じ強度でも、その人の「リミッター」が心肺なのか脚なのかでケイデンスの選び方が変わるということです。

先ほどのテーブルを思い出してください。ケイデンスを上げると筋肉の負荷が減り心肺の負荷が増える。ケイデンスを下げるとその逆。ケイデンスとは、「心肺」と「筋肉」という二つのエンジンの間で負荷をシーソーのように振り分けるツマミのようなものです。

心肺に余裕がある場合 ケイデンスを上げる
→ 筋疲労を軽減
→ 心肺の余裕を「使い切る」
→ 脚を後半に温存できる
心肺がリミットの場合 ケイデンスを下げる
→ 心拍の上がりを抑える
→ 筋力で出力を維持
→ 呼吸に余裕を確保できる
ケイデンスは「タイプ」ではなく「その瞬間のバランス調整」

実際にレースや練習で走っていると、乳酸が溜まって脚が動かなくなるタイプの人と、脚は残っているのに肺が先に弱るタイプの人がいます。自分のリミッターがどちらなのかを把握し、心肺と筋力の両方を「均等に使い切れる」ケイデンスを見つける。これがケイデンス選択の本当の判断基準ではないかと考えています。

重要なのは、このバランスポイントは固定されたものではないということです。その日のコンディション、レースの残り距離、気温、補給状態、コースプロフィールによって「今日の最適ケイデンス」は変わる。「自分は○○rpm」と決めてしまうことが、パフォーマンスの天井を作ってしまっている可能性があるのです。

ペダルストロークという視点 ―― ケイデンスの「前提」にあるもの

ここで少しだけ触れておきたいことがあります。ケイデンスを議論する前に、そもそも1回のペダルストロークでどれだけの時間、力をペダルに伝えられているかという問題です。

イメージとしては、ジャンプするときの体の使い方に近いかもしれません。体の中心 ―― 体幹やお尻 ―― から力を発生させ、太ももを通じて足先まで、連動させて地面に力を伝えていく。ペダリングでも同じことが起きていて、12時の位置で体幹からペダルをとらえ、そこから4〜5時の位置まで力を伝え続ける。この「力がペダルに乗っている時間」がペダルストロークの長さです。

ケイデンスを上げると、この一連の動作にかけられる時間が物理的に短くなります。だからまだこの連動がスムーズにできない段階では、少しケイデンスを落として、脚にペダルの負荷がかかっている時間を長く確保するほうが、結果としてトルクは生まれやすい。レベルが上がれば、100回転でも110回転でもストロークの質を維持できるようになりますが、それは一朝一夕にはいかない技術です。

この「ペダルストロークの質」については、別の記事で詳しく掘り下げる予定です。ここではひとつだけ覚えておいてください。ケイデンスの議論は、ペダルストロークの質が確保されて初めて意味を持つということです。


ケイデンスを「変える」ことで速くなる
―― 固定から変動へ


ここまでの話を整理します。

① パワーゾーンでケイデンスは変わる

低強度では低め、高強度では高め。体は本能的にこれを知っている。2024年のDunstらの研究は、この現象を筋繊維の動員パターンから科学的に裏付けた。

② 維持時間でも変わる

同じVO2max領域でも、3分なら高めのケイデンスで回せるが、5分以上維持するなら低めに抑えて心拍の上がりを管理する。ケイデンスの最適解は、強度×時間の二軸で決まる。

③ 心肺と筋疲労のバランスで微調整する

自分のリミッターが心肺なのか脚なのか。両方を均等に使い切れるポイントを、その日の状況に応じて探す。タイプ分けではなく、状況判断。

④ つまり「固定」しないほうが速い

ケイデンスを状況に応じて変化させることで、心肺と筋肉の両方をより効率的に使い切れる。「自分は○○rpm」と決めてしまうことが、パフォーマンスの天井を作っている可能性がある。

ここまでが「概念」の話です。ケイデンスを「変えるべきだ」と頭では理解できても、実走の中でそれを実行するのは簡単ではありません。特に勾配が変わる瞬間、体はしばしば判断を誤ります。

緩斜面に入った途端、パワーがストンと落ちる。急勾配に突入して、焦って踏みすぎる。FITデータを見ると、その「判断ミス」は数字としてはっきり記録されています。

Vol.2では、この勾配変化とトルクマネジメントに焦点を当てます。ケイデンスの理論を「走り」に変えるために、最も試される場面に踏み込んでいきます。


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