ロードバイクの最適ケイデンスは何rpm? ― パワーゾーンで変わる「回し方」の本質 Vol.2

Torque & Cadence ― Vol.2 / 3

勾配が変わる瞬間、
パワーが「抜ける」。
その正体と対処法




急勾配→緩斜面のトルク抜け、緩斜面→急勾配のエネルギー浪費。FITデータに残る「勾配変化の罠」


パワーメーターが見せてくれた
「目に見えなかった弱点」


Vol.1では、ケイデンスは固定するものではなく、強度・時間・リミッターに応じて変えるものだという話をしました。理屈としては分かる。しかし、実走でそれが最も試される場面がある。勾配変化です。

私がこの問題を明確に認識したのは、パワーメーターを初めて導入した約20年前のことでした。それまでは体感だけで走っていたので、勾配変化でパワーが落ちているという事実に気づけなかった。しかし数値で可視化された途端、はっきりと見えたのです。一定勾配ではずっと同じパワーを維持できるのに、アップダウンがある区間ではその都度パワーが落ちている。結果としてアベレージパワーも下がり、トレーニングの質自体が低下していました。

hsjのメンバーのデータを見ても、この現象は指摘するまでほぼ全員に共通して起きています。勾配変化でパワーが乱れるのは、初心者だけの問題ではない。むしろ「パワーメーターの数字を見ているのに気づかない」という意味で、中級者にとっても見えにくい落とし穴だと言えます。


トルクが「抜ける」瞬間
―― 緩斜面に入ったら、パワーが消えた


急勾配を登っているとき、ペダルには勾配による自然な抵抗がかかっています。重力に逆らって登っている以上、ペダルを踏めば自然にトルクが発生する。極端に言えば「踏めば進む」状態です。

ところが勾配が緩くなった瞬間、この「自然な抵抗」が消えます。同じケイデンスでペダルを回していても、ペダルにかかる負荷が急に減るため、トルクが抜けてしまう。パワーメーターの数字を見ると、ストンとワットが落ちているはずです。体感としては10%程度の出力低下が瞬間的に起きていると感じています。そして脚に負荷が戻ってくるまでの間、ワットは回復しません。

何が起きているのか

急勾配:重力が抵抗を作ってくれる → ペダルを踏めば自然にトルクが発生する
緩斜面に切り替わった瞬間:抵抗が減る → 同じケイデンスではトルクが「抜ける」 → パワーが落ちる
この間ずっと:脚に負荷が戻るまでワットは回復しない → パワーゾーンからの逸脱 → トレーニングの質が低下

対処法:「先読み」でギアとケイデンスを先に動かす

勾配が変わってから反応するのでは遅い。ペダリング数回転分のロスが生じ、その数回転で心拍も上がり、体幹的にもきつく感じます。たった数回転のロスが、蓄積すると無視できないダメージになる。

私が実践しているのは、道の先を見て勾配変化を予測し、変化が起きる前にギアを動かすことです。「見えてから」「感じてから」ではなく、先読み。勾配が緩くなりそうだと予測した瞬間に、先に先にギアをかけていく。

ここで正直に言っておきたいことがあります。「ギアを1〜2枚重くする」というのは、正解でもあり不正解でもある。初級〜中級者にとっては有効な対処法です。しかし理想を言えば、緩斜面に入ったとき本当に必要なのはケイデンスを上げることで速度を上げ、トルクを生み出していくことです。緩斜面では速度を上げていかなければならない。そこでギアを重くするのではなく、ケイデンスを上げて対応する。これはハイレベルな技術ですが、目指すべき方向はここにあると考えています。

WEIGHT MATTERS

もうひとつ見落とせない要素があります。体重差です。軽い選手は緩斜面で加速するとき、体重が軽いぶん加速に必要なエネルギーが少なくて済みます。しかし重い選手は加速のためにより大きなパワーが必要で、一瞬負荷が増える。同じ「緩斜面への切り替わり」でも、体重によって求められる対応が変わるのです。

選手の反応 ―「キツい」は正しい証拠

この「先読みでギアを早めにかける」対処法を選手に伝えると、最初の反応はだいたい同じです。「早めにギアをかけると脚への負担が大きくて、キツく感じる」と。

しかし、その「キツさ」は悪いキツさではありません。トルクが抜けていないことによる体への負荷です。今まで勾配変化のたびに無意識にパワーを落として「休んでいた」区間が、ちゃんと負荷がかかるようになった。だからキツく感じる。しかしそれは、パワーゾーンに正しく滞在できているということでもあり、フィジカルの向上につながる負荷なのです。

実際、この意識を持つようになってからは、10分間のFTP走においてもFTPゾーンに滞在している時間が明らかに長くなり、トレーニングの質は向上しました。タイムにも反映されています。


トルクを「受け止める」
―― 焦りがエネルギーを浪費する


Trap 1とは逆方向の勾配変化です。緩斜面を走っていて、急勾配に入る瞬間。

勾配が急に上がると、ペダルにかかる抵抗が一気に増えます。体は本能的に「重くなった」と反応し、その負荷に打ち勝とうとして踏み込んでしまう。結果として、ワットが不必要に跳ね上がり、心拍が急上昇し、その後の区間に使うべきエネルギーを浪費してしまいます。

パワーデータの出力が高い選手ほど、急勾配ではパワーが出ています。おそらくケイデンスを維持しようとしているのだと思います。しかしケイデンスに変化をつけるというのは、実はすごく難しい。一定のケイデンスを維持する「惰性」が、勾配変化のたびに裏目に出る。

レースで急勾配に入ったとき踏みすぎて、後半に脚を失った経験は数え切れないほどあります。急勾配は、絶対に慌ててはいけません

対処法:お尻で受け止める

急勾配に入って増えた負荷を、どこで受け止めるか。ここが重要なポイントです。

できればお尻(臀筋)で受け止めるのが理想です。大腿四頭筋で受け止めてしまうと、一気に脚にくる。お尻と体幹で負荷を吸収し、脚には必要以上の力を求めない。Vol.1で触れた「12時の位置で体幹からペダルをとらえる」意識がここでつながってきます。同じ意識です。体の中心で負荷をとらえて、それを脚に伝えていく。急勾配で焦って踏むと、この連動が崩れて四頭筋だけに負担が集中してしまうのです。

何が起きているのか

緩斜面:ペダルへの抵抗が軽い → 比較的楽に回せている
急勾配に切り替わった瞬間:抵抗が急増 → 本能的に踏み込む → ワットが跳ね上がる → エネルギー浪費
必要な対応:ギアを軽くしながら、お尻と体幹で負荷を受け止める → 出力の急上昇を意識的に防ぐ


強い選手は「勾配変化」で
自転車がすごく進む


この2つのTrapを理解した上で、強い選手の走りを観察すると、あることに気づきます。強い選手は、勾配が変わるポイントで自転車がすごく進むのです。

弱い選手は勾配変化のたびにパワーが乱れ、速度が落ちる。しかし強い選手は、同じポイントでむしろ加速しているように見える。なぜか。トルクが抜けていない。ケイデンスも適切で、ケイデンスの変化も上手く使いこなせている。勾配変化を「乱れ」ではなく「武器」にしている。

先読みでギアを動かし、トルクを維持し続け、パワーゾーンに長く滞在する。この意識がFTPゾーンへの滞在時間を伸ばし、トレーニングの質を高め、結果としてフィジカルの向上とタイムの改善につながる。「パワーゾーンに長く滞在するため」。これが勾配変化への対処のすべての理由です。

勾配変化で「乱れる」走り 緩斜面でトルクが抜ける
急勾配で踏みすぎる
パワーが上下に振れる
パワーゾーンからの逸脱が多い
後半に脚がなくなる
勾配変化を「使う」走り 先読みでギアを先に動かす
トルクを維持し続ける
パワーが安定する
パワーゾーンに長く滞在
勾配変化で加速する
同じ勾配変化が、弱点にも武器にもなる

FITデータが語る「勾配変化の罠」


ここまでの話は、すべてFITデータの中に証拠として残っています。パワー、ケイデンス、勾配の3つを重ねて見ると、勾配が変化するポイントでパワーがどう動くかが一目で分かります

【ここに法貴峠のFITデータ分析グラフを挿入予定】

DATA POINT ─ 法貴峠

パワー・ケイデンス・勾配のオーバーレイグラフで、以下の2つのパターンを確認できます:

パターンA(Trap 1):急勾配→緩斜面の切り替わりで、パワーが約10%低下。脚に負荷が戻るまでワットは回復しない。

パターンB(Trap 2):緩斜面→急勾配の切り替わりで、パワーが不必要に跳ね上がる。その後の心拍上昇とペースダウン。

hsjの解析システムでは、こうした勾配変化点でのトルク変動を検出する機能を開発中です。

勾配変化の2つの罠と対処法


場面 何が起きるか 対処法
急勾配→緩斜面
(Trap 1)
抵抗が減りトルクが抜ける
パワーが約10%低下
脚に負荷が戻るまで回復しない
先読みでギアを重くする
理想はケイデンスを上げて対応
体重が重いほど対応が重要
緩斜面→急勾配
(Trap 2)
抵抗が急増し本能的に踏み込む
パワーが跳ね上がる
エネルギーを浪費
お尻と体幹で負荷を受け止める
四頭筋で受けない
意識的に出力の急上昇を防ぐ
共通する原則:先読み

道の先を見て、勾配変化を予測し、変化が起きる前にギアを動かす。反応してからでは、ペダリング数回転分のロスが生じる。たった数回転。しかしその数回転で心拍が上がり、体幹的にきつくなる。「数回転の先読み」を意識できるかどうかが、パワーの安定と不安定を分ける境界線です。

覚えておくべきこと:「キツい」は正しい証拠

先読みでギアを早めにかけると、最初はキツく感じます。それは今まで勾配変化のたびに無意識に「休んでいた」区間に、ちゃんと負荷がかかるようになったから。トルクが抜けていないことによるキツさは、パワーゾーンに正しく滞在できている証拠であり、フィジカルの向上につながる負荷です。


次回:最も難しい「能動的トルク」


Vol.2で扱った勾配変化は、基本的に「受動的トルク」の世界です。登りでは勾配が負荷を作ってくれる。ペダルを踏めば、勾配がトルクを「返して」くれる。その負荷が変動するときにどう対応するかが、今回のテーマでした。

しかしサイクリングには、もうひとつ決定的に難しい場面があります。自分からトルクを生み出さなければならない場面。1〜3%の下り基調の平坦。登り下りが交互に来るアンデュレーション区間。ここではペダルに「乗っかっている」だけでは何も起きません。自分から負荷を追いかけていかなければならない。

この「能動的トルク」の領域は、レベルの差が如実に表れる場所です。まずトップスピードが違う。高い速度を出そうとするとケイデンスは上がりますが、トルクを生みながらケイデンスを上げなければならない。それが下り基調のペダリングの難しさであり、すごく慣れが必要な要素です。

Vol.3では、この「能動的トルク」にフォーカスします。最も難しく、最も差がつく領域です。


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