L2 で本当に難しいのは、 L2 そのものではなかった

hsj Training Theory ― Vol.002

L2 で本当に難しいのは、
L2 そのものではなかった



心拍・呼吸・ケイデンスのコントロール


前回の Vol.001 「Zone 2 は本当に『正解』なのか」 では、L2(Zone 2) は誰にとっても「最適解」ではなく、自分のフェーズに応じた「条件付き正解」である、ということを書きました。

では、L2 をやると決めた人は、実際に何に気をつければよいのか。今回はその実践面、つまり L2 をやろうと思ったときの注意点を、現場で見ていることに沿って共有したいと思います。

はじめに正直に書いておくと、私自身も何が正解なのかは今も勉強中です。これは L2 に限った話ではなく、トレーニング全般について言えることだと感じています。そのうえで、私が現場で意識していること、選手やお客様にお伝えしていることを、できる範囲で言語化してみます。


L2 の起点は、パワーではなく心拍と呼吸


L2 の強度を決めるとき、最初に何を見るか。私は、パワーよりも心拍を優先するようにしています。

パワー値で L2 を定義する場合、FTP の何パーセントという形で計算することが一般的です。ただ FTP そのものが、トレーニングフェーズによって大きく変動する性質を持っています。基礎期と本番期では FTP は別の数字になり得ます。ブレた FTP から換算したパーセンテージは、結局それ自体がブレた値になってしまうのではないかと感じています。

一方、心拍数は最大値の上限を把握している人が比較的多く、指標として安定しやすい側面があります。私が現場で目安にしているのは、最大心拍数の60〜75%帯です。

ただし、ここで一つ難しい問題があります。日々の体調や体温は、パフォーマンスや体感に影響を与えます。同じ心拍数でも、その日のコンディションによって身体の中で起きていることは違っている、ということです。「心拍が範囲内に収まっていればよい」と機械的に判断できないのが、L2 の難しいところでもあります。

最終的に頼るのは、鼻呼吸

そこで、私が最も信頼している起点は、機材の数字よりもむしろ体感、特に呼吸のコントロールです。

具体的には、鼻呼吸のみで維持できるかを一つの基準にしています。鼻呼吸を維持できず、どうしても口を開けたくなる ── いわゆる空気飢餓感を感じ始めるポイントは、血中乳酸が上昇し始める LT1(乳酸性作業閾値の第一閾値)と極めて高い相関があると言われているからです。

機材を持っていない方への現場アドバイス

もし心拍計もパワーメーターもお持ちでない方に L2 のアドバイスをするなら、私はこうお伝えします。
「鼻呼吸で走れる最大のペースを探して、そこで負荷を調整してみてください」

これだけで、L2 の入り口に立つことはできると感じています。心拍計やパワーメーターは、その感覚を裏付けるための補助として使う ── これくらいの位置づけが、私には合っています。

ケイデンスは、楽な回転でいい

L2 中のケイデンスについては、無理に高いケイデンスで走る必要も、わざわざ低いケイデンスを使う必要もないと考えています。リラックスして楽に走れる回転数で十分です。

具体的な数字で言えば、だいたい 80〜90rpm を少し超えるくらいに自然と落ち着く方が多いのではないかと思います。L2 はメニューそのものを「こなす」種類のトレーニングではないので、自分の身体が気持ちよく回せる回転で走ればよい、というのが私の感覚です。


心拍ドリフトを、どう読むか


L2 を1時間以上続けていると、出力は一定なのに心拍だけがじわじわと上がってくることがあります。いわゆる心拍ドリフトです。これにどう向き合うかも、L2 を継続するうえで大切なポイントになります。

私は心拍ドリフトを、大きく二つに分けて読んでいます。

① 技術的な要因によるドリフト

身体的な L2 強度よりもパワー値そのものが高すぎる、あるいはケイデンスが最適でない。このどちらかが原因で、結果として心拍が上がってきている可能性があります。

② 疲労蓄積によるドリフト

強度もケイデンスも適正なのに、それでも心拍が上がってくる場合。これは身体側に蓄積疲労のサインが出ている可能性が高いと判断します。

私自身の判断軸として、心拍が5%上昇してしまうようなら、かなり疲れがたまっていると判断し、その時点で L1 へ切り替えてライドを続けるようにしています。L2 を完遂することよりも、翌日以降のトレーニングに影響を残さないことの方が優先順位が高い、という判断です。


上振れは注意、下振れの方がよい


L2 で強度がぶれてしまったとき、どちらにぶれるかで意味がまったく変わります。これは、L2 を機能させるうえで最も大切な一線だと感じています。

本記事の中心的なルール

L1 へ下がる分には、まったく問題ありません。むしろ疲労が出ている日であれば、自ら L1 へ下げる判断は積極的に取ってよいと考えています。

一方で、L3 や、信号スタート時にかかる大きな負荷など、L2 よりも高い負荷が入ってしまうことに対しては、強く注意しておきたいところです。

なぜ上振れがそれほど問題なのか。私の理解では、これはエネルギー代謝のスイッチに関わる話だからです。

L2 の主な狙いの一つは、脂質を主体としたエネルギー代謝を働かせて、有酸素能力の土台を作ることにあります。ところが、強度が一時的にでも L3 域へ跳ね上がると、身体は糖質依存のスイッチを押してしまいます。一度このスイッチが入ると、その後どれだけ L2 強度に戻して走り続けても、本来狙っていた脂質代謝の刺激が得られなくなる恐れがある、ということです。

つまり、L2 の効果は「最も強度の高かった瞬間」によって上書きされてしまう、と言ってもよいかもしれません。だからこそ、L2 をやる日はとにかく上振れに注意する。下に振れる分には、後から取り戻しが利きます。この非対称性を体感として知っておくことが、L2 を機能させる第一歩なのではないかと考えています。


練習頻度別の、L2 の取り入れ方


読者の方の練習頻度はそれぞれ違います。私が現場で感じている、頻度別の取り入れ方の目安をお伝えします。

週末しか乗れない方(週1〜2回)

正直に申し上げると、この頻度の方には L2 はほとんど必要ないように思います。限られた時間を L2 に当てるよりも、別の優先順位を持たれる方が結果につながりやすい印象があります。

週3〜4回乗れる方

4日乗れるのであれば、そのうち1日は L2 のみのライドに当てる。残りの日は他のメニューと組み合わせる中で、L2 をうまく組み込んでいく ── というのが現実的な配分だと考えています。

週5〜6回乗れる方

この頻度になると、考え方が反転します。「どこに L2 を入れるか」よりも、「どこに高強度を入れるか」を先に決めることの方が大切になってきます。

週5日であれば2日は高強度、その他は L2 メイン。週6日であれば、2〜3日の高強度メニューを入れられる配分になると思います。

頻度が増えるほど、L2 を入れる場所そのものは難しくなくなります。むしろ問題は別のところに移っていきます。


L2 の本当の難しさは、別のところにある


これまで多くの選手を見てきて感じることがあります。それは、「L2 をどこに入れるか」の難しさよりも、「高強度をどのようにこなすか」の方がはるかに難しいということです。

逆に言えば、高強度をきっちり入れる日を作れる選手にとって、L2 を取り入れること自体は実はとても簡単です。L2 は身体的にイージーな負荷だからです。

ところが ── ここが今回最も伝えたい部分なのですが ── 一週間の流れの中で L2 を効果的に取り入れていくことは、見かけほど簡単ではありません。

起きやすい失敗の連鎖

L2 をやるとき、無意識のうちに負荷が上がってしまい、L3 を刺激してしまっているケースが本当に多いのです。そして、これが起きると次のような連鎖が始まります。

L2 の日に L3 を刺激してしまう
エネルギー代謝・疲労の両面で、翌日に影響が残る
翌日・翌々日の高強度練習で、パワーが上がりきらない
狙っていた L5 に届かず、L4 のゾーンで止まってしまう
L2 の日に L3 へ。L5 の日に L4 で止まる。── 結果として、L3〜L4 のボリュームばかりが増えていく

結果として何が起きるか。本来狙っていた L2 の時間も思うほど伸びず、本来狙っていた L5 の刺激も入らず、中間域である L3〜L4 のボリュームばかりが積み上がっていく、という事態になります。週単位で見たとき、最も避けたい配分です。

それだけに、L2 という「身体的にはイージーな負荷」を、意識的にコントロールしていくことの重要性は、見た目以上に大きいのです。


強い選手は、パワーマネジメントがうまい


選手を長く見ていて気づくのは、強い選手ほど、ここのコントロールが上手だということです。パワーマネジメント、と言ってもよいかもしれません。

L2 で踏まずに耐えられるか。疲れている日には L1 まで自ら下げられるか。高強度の日に、そこに合わせて L2 の日を整えられるか。こうした「強度を意図通りに配分する力」が、結果として一週間、一ヶ月、一年というスパンでの成長曲線を作っていくように感じています。

Vol.001 では「自分は今どのフェーズか」を問うことの大切さを書きました。しかしフェーズが見えていても、日々の強度をコントロールする力がなければ、その配分は機能しません。フェーズを見極めることと、強度をコントロールすること。この両輪が回って初めて、L2 は本当の意味で機能するのではないかと考えています。

L2 はやさしく見えて、実は最もコントロールが問われる強度です。「楽な日」ではなく「自制が必要な日」。この感覚を持って一週間の練習を組み立てていけば、L2 の積み重ねは必ず身体に蓄積されていくと、私は信じています。


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※ 本記事の見解は筆者個人の指導経験と研究文献の解釈に基づくものであり、トレーニング処方は個人の体力レベル・目標・年間スケジュールにより最適解が異なります。具体的な処方については、必ず信頼できるコーチや専門家にご相談ください。

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