カーボンスポークは、 長距離に向かないのか

Gear ― Essay

カーボンスポークは、
長距離に向かないのか
── 世代と内幅の話



web上でよく見かける問いに、店頭と実走の感覚から

「カーボンスポークは硬い、長距離に向かない」── web上でそんな声をよく見かけます。手がしびれる、振動が来る、長く乗るとそれが効いてくる。確かに、と思う部分はあります。

ただ、同じ「カーボンスポーク」とひとくくりにされているものの中身を、もう少し細かく見ていくと、その評価は一枚岩ではないと私は感じています。スポークの世代と、リムの内幅。この二つの組み合わせで、手に来るものはずいぶん変わります。今回はそのあたりを、店頭と実走の感覚から書いてみようと思います。

世間が語る「対策」


手のしびれや痛みの対策として、よく挙がるものはだいたい決まっています。空気圧を下げる、タイヤを太くする、厚手のバーテープやパッド付きグローブを使う、ポジションで手への荷重を減らす。医学的には、手のひらの神経(Guyon管)が圧迫される、いわゆるサイクリスト麻痺の話も出てきます。

私が気になっているのは、同じタイヤ・同じ空気圧でも、ホイールの世代と内幅で手に来るものが変わる、という点です。ここを少し掘ってみます。


同じカーボンスポークでも、ここまで違う


私の手元には、ちょうど三段階の違いを感じられる組み合わせがあります。擬音まじりで恐縮ですが、私の感覚をそのまま書いてみます。

内幅21mm × GEN3スポーク。これはガツガツとした振動が来ます。ホイール全体が一つの固まりのような感覚で、路面の段差がそのまま手に伝わってくる。一番きつい組み合わせです。

内幅25mm × GEN3スポーク。内幅を広げた分、振動はもちろん減ります。ただGEN3はGEN3で、こちらはボンボンボンと、タイヤの硬い空気の壁を感じる。空気圧を下げていっても、GEN3スポークで組み上げられたホイールはホイールそのものが硬いままで、タイヤだけがしなり、グニュグニュとした感覚とともに路面の凹凸に対応します。

内幅25mm × GEN4スポーク。これはボワンボワンと、ホイール全体で路面の衝撃をいなしてくれる感覚があります。面白いのは空気圧との関係で、空気圧を下げても、ホイール全体がしなって(たわんで)くれるからか、GEN3のように「下げた分だけ硬いホイールにタイヤが潰される」感覚が少ない。タイヤの潰れ方がすごくニュートラルで、ボワンボワンという表現が適切か分かりませんが、ホイールの剛性バランスが適正化されるのか、タイヤの変形に関しては空気圧の影響を受けにくいように感じます。特に8LIENのGEN4スポークはしなやかで、乗った瞬間に路面の凹凸にホイールが合わせてくれる感覚に驚きました。

ひとつ気づいたこと

21mmのGEN3で、グニュグニュするところまで空気圧を下げようとすると、今度は漕いだ感じが重くなってしまって、そこまで下げられない。「快適にしたいのに快適にできない」という行き止まりがあります。内幅と世代は、空気圧で逃げられる範囲そのものを決めているのではないか、と感じています。


内幅だけでも、世代だけでもない


なぜ内幅を広げるだけでは足りないのか。私なりの解釈は、カーボンスポークが持つ弾性にあると考えています。

GEN3は硬くてしならない特性がある一方で、ハブ・リム・スポークの一体感がとても高い。内幅21mmだと、その質量がギュッと密度高く詰まっている感覚があります。内幅25mmになると、ワイドに広がってその質量が分散され、ホイール全体に少し安定感が出る。さらにタイヤ内のエアボリュームが増えることで、タイヤの中の空気を、はっきり感じられるようになります。

このあたりを、ボールに例えると伝わりやすいかもしれません。

内幅25mm 張りのある、公式のテニスボールのような感覚。空気を多く入れても張りのあるボールだし、空気を少なくしても、空気の少ないテニスボールに変わるだけ。芯の張りは残ります。
内幅21mm 空気を入れると、公式の野球ボールのような硬さになる。逆に空気を抜くと、今度は反発力のなくなったボールになってしまう。「ちょうどいい張り」の幅が狭い。
同じカーボンスポークでも、内幅で「空気圧で動かせる範囲」が変わる

細い内幅だと、空気を感じるというよりも、空気圧を上げれば硬いタイヤになってホイールと一体化し、下げればタイヤがヨレる。どちらにしても、空気そのものを感じることは少ない。広い内幅だと、張りのあるタイヤとして、その空気を味方にできる。

ただ、内幅21mmより25mmのほうが振動が減るのは確かでも、25mmという幅になってもGEN3はやはり全体の剛性が高い。荒れた路面からの突き上げは、それなりに堪える感じが残ります。「内幅さえ広げれば快適」とは、言い切れません。


GEN4スポークの設計思想


では世代が上がれば、必ず柔らかくなるのか。これも、そう単純ではありません。ひとくちにGEN4と言っても、ブランドごとに中身がかなり違うからです。

私の手元の感覚では、こんな順番になります。VONOA Gen4が固め、PARTICLE Gen4が真ん中くらい、8LIEN Gen4がしなやかで反発が高め。同じ「Gen4カーボンスポーク」でも、乗り味は三者三様です。

ここで一点、補足を。8LIEN AETHER 5のスポークは、web上では業界標準のVONOA Gen4だと書かれていることがありますが、これは8LIEN本国に直接確認したところ、8LIENオリジナルのGen4でした。中身が違うものを、同じ名前で語ってしまっていた、ということですね。スポークの数値を並べると、その違いが見えてきます。

スポーク 重量 厚み
8LIEN Gen3(前作 L5W) 約3.0g 4.5mm 1.0mm
VONOA Gen4(業界標準) 約1.8g 3.2mm 0.9mm
8LIEN Gen4(AETHER 5) 約2.0g 2.7mm 1.2mm

8LIEN Gen4は、VONOAより薄く・狭くしながら、あえて厚み(1.2mm)を残している。ただ軽く、ただしなやかにすればいい、という作りではないわけです。AETHER 5のスポークは、薄くなった分VONOA Gen4よりしなやかに感じるのに、厚みがある分、反発も高い。このあたりの設計思想は、すごく面白いと思っています。

感覚としては、剛性が高いというよりも、一瞬たわむけれど、反発力がある。この一瞬たわむときに、振動を吸収してくれる感じがあります。ペダリングのときの脚当たりも、しなってから、ビュンと伸びる。これも、このスポーク特性なのだと思います。


店頭で、私が伝えていること


お客様が「カーボンスポークはやっぱり振動で手が痛みますか?」と相談に来られたとき、私はだいたいこんなふうにお伝えしています。

従来の21mm・25mm幅のGEN3は、確かに硬いです。その代わり、一体感のあるホイールになっていて、この一体感には良さもある。その反面、硬さがあるから振動が来る。Gen4になると、その一体感は少し減って、しなやかさが加わる。そのしなやかさが、振動の吸収につながっている。── 良し悪しではなく、性格の違いとして説明するようにしています。

それから、ホイール以外の影響も大きいです。タイヤ幅とチューブですね。

タイヤ幅

30cにすると、振動吸収はマシになりますが、登坂の反応は鈍くなります。28cは振動吸収では30cに劣りますが、走りは軽やかになります。

チューブの種類

ブチルチューブやTPUを入れると、乗り心地は硬くなります。ラテックスならしなやかさが生まれる。チューブレスならより空気の量が増えるので、空気の恩恵を受けられますが、運用の難しさという部分もあります。

空気圧については、よく聞かれるので、あくまで一つの目安として私が見ている数字を書いておきます。本当に人によって好みが分かれるので、参考程度に受け取ってもらえたらと思います。

空気圧の目安(チューブレス・28C)
体重 55〜60kg の方 ── 3.5bar 前後
体重 60〜70kg の方 ── 3.8bar 前後
私(80kg)の場合 ── 4.3〜4.5bar
※ クリンチャーの28Cになると、上の数字にプラス0.3barほど高めにしている方が多い印象です。

こうして並べてみると、機材というのは、すべてを網羅することは難しくて、トレードオフの構造になっていると思います。軽さ、剛性、快適性、運用のしやすさ。どれかを取れば、どこかを手放すことになる。

だから「カーボンスポークは長距離に向かない」とも、「向く」とも、私は言い切れません。世代と、内幅と、タイヤと、空気圧。その組み合わせ次第で、手に来るものはまるで変わる。web上のひとくくりの議論からは、たぶんこぼれ落ちている部分です。

まずは店頭で、同じ条件で乗り比べてもらえる準備を整えておこうと思います。言葉で説明するより、一度ご自身の手で確かめてもらうのが、いちばん納得できると思っています。──

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※ 本記事のインプレッションは筆者個人の体感に基づくものであり、体重・走行環境・セッティングにより印象は異なります。

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