【生理学Vol.2】なぜ今、VO2maxが必要なのか?

ヒルクライムにおける「L4の頭打ち」を打破する。

ー生理学的上限拡張の必要性




「なぜ今、ヒルクライムやエンデューロのためにVO2max(最大酸素摂取量)を極限まで引き上げる必要があるのか?」という生理学的アプローチに迫ります。

「L4(閾値)の向上には、L4の反復が最適」という誤解

我々が主戦場とするヒルクライムやロングレースの出力帯は、主に「L3〜L4(テンポ〜乳酸閾値周辺)」です。「レースで使う強度を反復することこそが特異的トレーニングである」という古典的な理論に基づき、冬場にSSTやFTPベースのワークアウトを蓄積するライダーは少なくありません。
初期段階において、このアプローチは確かに有効です。しかし、ある一定のレベルに達すると、必ず「プラトー」に直面します。どれだけ閾値トレーニングのTSS(トレーニングストレススコア)を稼いでも出力が頭打ちになり、慢性的な疲労によってパフォーマンスが低下していくのです。
この現象の裏には、極めて絶対的な生理学的ルールが存在します。
「有酸素運動のベースライン(L4)は、生理学的な上限(VO2max)を超えることはできない」という事実です。


クリスティアン・ブルメンフェルトに見る「絶対的キャパシティ」の構築

この上限と下限の関係性を、トライアスロン界の王者、クリスティアン・ブルメンフェルト選手の事例から紐解いてみましょう。

彼はショートディスタンスを主戦場としていた時期、強烈な高強度インターバルによってVO2maxを「90~100 ml/kg/min」という驚異的な数値まで引き上げました。これは燃費(代謝効率)を度外視した、圧倒的な心肺機能を構築するフェーズです。

その後、彼がロングディスタンス(アイアンマン)へ転向した際のアプローチが非常に示唆に富んでいます。彼は「巨大な最大出力」の維持に固執せず、L3/L4領域のボリュームを劇的に増加させました。 結果として、VO2maxの絶対値は低下(約80 ml/kg/min程度へ)しましたが、代わりにFatMax(最大脂質酸化量)と閾値での持続力が飛躍的に向上し、世界記録を樹立したのです。

これは能力の低下を意味するものではありません。 「一度、絶対的な上限(VO2max)を極限まで押し広げたからこそ、その下の領域(L4)のボリュームを拡大するための圧倒的な生理学的スペースが生まれた」のです。


基質利用(エネルギー代謝)の最適化

我々アマチュアレーサーの体内で起きている現象も、これと完全に一致します。 VO2maxが高い状態とは、「同じ250Wを出力していても、体内のエネルギー供給システム(基質利用)が根本的に異なる」ことを意味します。

・上限(VO2max)が低いライダー

250Wが「高い相対的強度」となります。解糖系への依存度が高まり、乳酸の蓄積とグリコーゲンの枯渇を招き、レース後半で確実に失速します。

・上限(VO2max)が高いライダー

250Wが「低い相対的強度」となります。酸化系(脂質代謝)が優位に働き、限りある糖質を温存したまま、疲労物質を蓄積させずに巡航し続けることが可能です。

現在、我々が苦痛を伴うVO2maxトレーニングを優先する最大の理由。それは単に「短時間の最高出力を上げるため」ではありません。 「目標とするレースペースの『相対的強度』を引き下げ、体にとって『楽な代謝状態(脂質優位)』へと書き換えるため」なのです。


【次回予告】
では、この「巨大なエンジン(生理学的上限)」を構築するためには、どのような刺激が必要なのか。従来の「5分間全力走」が抱える時間効率のエラーと、それを解決する最新のプロトコル「マイクロインターバル」について解説します。




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