「Craft Racing Works|クラフトワークス :Vol.2」

CRW Deep Dive ― Vol.2 / 3

クラフトワークス──
ハブとスポークの結合に隠されていた、
他社との「決定的な違い」



リム、スポーク、ハブ。3つの構成要素を構造レベルで見ていきます

前回の第1回では、CRWの実態とCS5060HGの概要をお伝えしました。

第2回となる今回は、このホイールの核心 ── テクニカルな構造に踏み込んでいきたいと思います。リム、スポーク、ハブ。それぞれに確認しておきたい事実があります。

とりわけ注目していただきたいのが、ハブとスポークの結合機構です。私自身、調べていく中で、ここにCRWが他社と決定的に異なる理由が隠されていると感じるようになりました。

東レ T700/T800カーボン、
そして「無塗装」が意味すること


リム素材には日本の東レ(Toray)製T700およびT800カーボンファイバーが採用されています。T700は引張強度に優れ、T800はさらに高弾性率を持つ上位グレードです。この2種の使い分けにより、必要な箇所に必要な特性を配分する設計が可能になっていると考えられます。

ここで注目したい事実があります。CS5060のリムには塗装が一切施されていません

金型から取り出した状態(UD仕上げ)のまま、自然な光沢を活かした特殊な製造方法が採用されています。

「無塗装」の本当の意味について

「無塗装=コストダウン」と解釈される方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそれだけではないと考えています。塗料分の重量削減という実利もありますが、それ以上に、塗装で隠せない以上、カーボンの成形精度そのものが問われるということを意味しているのではないでしょうか。CRWにとって、無塗装は品質に対する自信の表れでもあるように感じます。

フック付きリム ── あえてフックレスを選ばなかった理由

リム形式はフック付き(Hooked rim)です。

この選択の背景には、チューブレスおよびクリンチャーの両方に対応するという「タイヤ選択の自由度」を優先する思想があるのではないかと考えられます。CRWとしては、ユーザーの使い方を制限しない方向性を選んだのだと思います。2026年モデルの推奨タイヤ幅は28〜45mm、推奨空気圧は100psiまたはタイヤ上限値とされています。

特許取得カーボンスポーク ──
「フロント16本」で本当に大丈夫なのか


CS5060には、CRW独自の特許取得済みカーボンファイバースポークが採用されています(特許番号:ZL 2023 2 1468923.0)。最大の構造的特徴は、スポークの両端にネジ切りが施されている点です。

2026年モデルでは「エアロブレード(Aero blade)」形状にアップグレードされました。薄型の断面形状で空気を切り裂くように設計されており、両端がロックされるため非空力的な方向への回転が防止される仕組みになっています。

項目フロントリア
本数16本20本
組み方左右タンジェント(8本×2)左右タンジェント(10本×2)
素材カーボンファイバーカーボンファイバー
形状(2026)エアロブレードエアロブレード

フロント16本。ディスクブレーキホイールとしてはかなり少ない本数です。一般的な24本と比較すると8本も少ない。当然、気になる疑問が出てきます。

「16本で制動力は足りるのだろうか?」

16本スポークの制動力 ── 構造から考えてみます

結論から言えば、構造的にはむしろ有利と考えられます。CS5060は左右両側がタンジェント組であるため、16本のうち8本がブレーキング時の制動力を直接処理します。対して、一般的な2:1構造の21本スポークホイールでは、制動力を処理するのは7本です。スポーク本数は少なくても、制動を担うスポーク数はむしろ多いことになります。

なお、16/20H構成でラジアル組を一切使用せず全数タンジェント組という設計は、ドイツのLightweightが採用する構成と類似していると言われています。駆動・制動の両方にタンジェント組で対応する、理論的には非常に理想的な組み方ではないかと思います。

スポーク本数の少なさは、軽量化と空気抵抗削減に貢献しているのは間違いないでしょう。しかし、それだけではCRWの真の優位性は説明できないように感じています。核心はスポークの「固定方法」にある ── 私はそう考えています。

0.1g単位の執念 ──
CNC削り出しハブに込められた設計思想


ハブボディは7075-T6アルミニウム合金のCNC切削加工で製造されています。CRW独自設計で、こちらも特許取得済みです(ZL 2022 2 3355786.8)。

調べていて驚いたのは、その軽量化への執着です。応力解析に基づき限界まで肉抜きが行われているとのこと。ディスクブレーキローターのスプラインも半数を除去するなど、0.1g単位で削り落としているそうです。CRWの軽量化に対する真剣さが伝わってくるように感じます。

TPI製セラミックベアリング ── 「台湾製」の実力を確認する

2026年モデルのベアリングには、台湾のTPI製セラミックハイブリッドベアリングが採用されています。

ここで一つ、重要な確認事項があります。TPIは1966年創業で、日本のNTN株式会社と技術提携を行う台湾の大手ベアリングメーカーです。航空宇宙グレードのセラミックを使用した自転車用ベアリングでTaiwan Excellence Awardを受賞した実績もあります。「台湾製ベアリング」という字面だけで判断するのは適切ではないように思います。

位置規格サイズ数量
フロントハブ690215×28×7mm2個
リアハブ本体690215×28×7mm2個
リア・フリーボディ680215×24×5mm2個

合計6個のセラミックハイブリッドベアリングが使用されています。セラミックボール(窒化ケイ素:Si₃N₄)とスチールレースの組み合わせで、ASTM F2094規格準拠の航空宇宙グレード素材とのことです。同重量クラスのハブと比較して、より大きなサイズのベアリングを採用しているのが特徴的です。しかも標準規格(6902/6802)のため入手性が高く、交換が容易というのも実用上のメリットと言えるのではないでしょうか。

36Tスターラチェット ── なぜ54Tや72Tを選ばなかったのか

36Tスターラチェット機構が採用されています。DT Swiss社の特許切れ構造を採用したもので、面と面でかみ合う方式により力の伝達効率が高いとされています。10度ごとの噛み合いです。

54Tや72Tという選択肢がある中、CRWが36Tを選んだ理由は比較的明確なように思います。歯数が多いほど噛み合いは早くなりますが、構造の複雑化と耐久性のトレードオフが生じます。CRWとしては信頼性と実用性を優先したということなのでしょう。なお、DT Swiss 240ハブのフリーハブボディと交換可能というユーザー報告もあるようです。

スレッドロック結合 ──
ここにCRWの「決定的な違い」が
隠されていました


ここがこのホイール最大の技術的ハイライトであり、私がCRWに最も大きなアドバンテージを感じているポイントです。

まず、一般的なホイールの構造を確認しておきましょう。

通常のホイールでは、スポークはリム側のニップルにねじ込まれて固定されます。ハブ側はフランジの穴にスポークのヘッドを引っ掛ける構造が一般的です。

CRWはこの方式を逆転させています

ハブ側にスポークを直接スレッドロック結合するという構造です。

ペダリングパワー ハブ スポーク リム タイヤ 路面
力の伝達経路 ── ハブとスポークの接合部がボトルネックになりうると考えられます
一般的なホイール ハブフランジの穴にスポークを「引っ掛ける」構造。接合部に微小な遊びが生じ、力の伝達にわずかなロスが発生する可能性があります。
CRW スレッドロック方式 ハブにスポークを直接ねじ込み、強固に一体化。接合部の遊びが物理的に排除され、パワーロスが構造的に最小化されていると考えられます。

この構造がもたらすアドバンテージを、私なりに整理してみました。

① 剛性の飛躍的向上

ハブとスポークがスレッドロックで強固に結合されることで、一体化した剛性構造体を形成していると考えられます。ホイールセット全体の剛性が大幅に向上しているのではないかと感じています。

② パワーロスの構造的排除

従来のフランジ穴+ヘッド構造では、接合部のわずかな遊びが力の伝達ロスになる可能性があります。ネジロック方式はこの遊びを物理的に排除する仕組みです。ペダルに込めた力がよりダイレクトにリムへ伝わるのではないかと思います。

③ スポークの空力位置を維持

両端ネジ付きカーボンスポークとの組み合わせにより、スポークが回転せず空力的に最適な位置を常に維持できる構造になっています。エアロブレード形状のスポークが意図した角度から動かないという点は、大きなメリットのように感じます。

④ 最適なスポーク角度の実現

フランジが最小限に設計されているため、スポークがハブから可能な限り垂直方向に伸びるようになっています。これによりスポークテンションの効率が最大化され、少ないスポーク本数でも十分な横剛性が確保されていると考えられます。

なぜ他社はこの方式を採用していないのか ── 私の考え

多くのカーボンスポークホイールは、いくら優秀なスポークやリムを使っていても、ハブとスポークの接合部は従来構造のままであることが多いように見受けられます。つまり、力の伝達経路の中に「旧来の弱点」が残っている可能性があるのではないでしょうか。

CRWがこの方式を実現できている理由は、比較的明確だと思います。ハブ、スポーク、リムのすべてを自社でゼロから設計しているからです。汎用ハブを流用し、汎用スポークを組み合わせるアプローチでは、この結合方式は構造的に成立しにくいのではないかと考えられます。

第1回で触れた「カーボンスポークのためにゼロから設計する」という思想 ── その意味が、ここで初めて鮮明に見えてきたように感じます。すべてはこのスレッドロック結合を成立させるための、逆算された設計だったのではないか。私はそう考えています。

地味だけれど重要な追加機能 ──
長期的な回転性能の維持


2026年モデルに追加された調整可能なベアリングプリロードシステムについても触れておきたいと思います。

工場出荷時はロードバイクの標準的なスルーアクスルトルク(10〜12N·m)に最適化されているとのことです。グラブスクリューを緩めてプリロードを調整し、再固定することができます。

なぜこれが重要なのか。スルーアクスルの締め過ぎはベアリング寿命の短縮や回転の渋さを引き起こす可能性があります。フレームメーカーごとに推奨トルクが微妙に異なるという現実を考えると、ユーザー側で最適化できるこの機構の価値はかなり高いのではないかと感じています。


第2回では、CS5060HGのリム、スポーク、ハブの構造を見てきました。

東レT700/T800カーボンの無塗装リム。特許取得エアロブレードカーボンスポーク。0.1g単位で軽量化されたCNC削り出しハブ。TPI製セラミックベアリング。それぞれが高いレベルにあるのは確かだと思います。

しかし、それらを「一つのシステム」として成立させているのは、ハブとスポークのネジロック結合ではないかと私は考えています。この独自の接合方式こそがCRWの技術的核心であり、他社との最大の差別化ポイントのように感じます。

すべてのコンポーネントが「カーボンスポークのためにゼロから設計された」という思想のもとに統合されている。パーツ単体の性能ではなく、システムとしての完成度。調べるほどに、それがCS5060HGの本質なのではないかという思いが強くなりました。

次回の最終回・第3回では、このホイールを実際にバイクに装着して走った印象をお届けします。数字とスペックでは見えない ── 身体で感じる「ある感覚」について、率直にお伝えしたいと思います。

【Jamcycle 機材インフォメーション】

CRW CS5060HGをはじめ、店舗にて試乗予約・ご相談を承っております。
データだけでは語れない「生きた機材の感覚」を、ぜひご自身の脚でご体感ください。

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